○注目本(書評も)○この書評欄のはじめに、井上章一本から着手できることを悦びたい。井上本は、長年の読者である。初期の『桂離宮神 話の造られ方』の登場には、それまでの<批評のスタイル>と は異なった視線を堪能させてくれた。京大の建築科卒という こともあるが、「意匠」「建築史」という座標軸の交差に照 準を合わせるときに浮かびあがる「様々な意匠」とでもいう べき事実、本質の累々。およそ、近代という直線ゲームと捨 象の論理から振り返り、立ち返るとき、いまその時、ポスト ・モダンと呼称しようとなんとしようと、その呼称、呼び名 ともまた別種の「視点」を、われわれの土壌の草むらの中か ら見出したコトバで語ろうとする意思に出会う。それが、井 上章一なのだ。「批評」もまた、創造的営為だとするなら、 このスタイルもそのひとつでありうる。 ○「名古屋と金シャチ」井上章一・NTT出版・259P.1680E. ひさしぶりな感じがする。待ってました。と、叫ぶがいい。 いつもながらの「登場」。とは、話題の建て方。に妙意があ るからだ。今回も「愛・地球博」に、引っかけたような tim -ing 。評者のその勘ぐりは、軽あ~るく「裏切られる」と。 ここでも井上の独特の<視点>は、健在だ。「阪神タイガース の正体」で魅せたファン心理の解剖。市民が球団お仕着せの でない、ファン像を獲得していくプロセス。井上の視点は、 日本型民主主義への視点なのだ。これは同時に、コトバの、 思考の「それ」でもある。「名古屋」のことは、読後とす。 |